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月と太陽 〜hugcoffee 12周年に寄せて〜

 

今年で12周年を迎えたhug coffee。

『スペシャルティコーヒーを広め、コーヒーで街をデザインする』を理念に、歩み続けてきたこれまで。

 

今改めて、足跡を記すとともにこれからの未来について尋ねてみた。

 

2011年3月11日

日本中を揺らした東日本大震災の日に、hug coffeeは始まりの日を迎えた。代表を務めるのは二人の幼馴染。清水に生まれ育ち、いつか静岡で面白いことをしたいと思い描いてきた。

 代表 古閑大士 酒井隆介

 

二人に共通していることは、世界中を巡ってきたこと。その土地のカルチャーとともに、迎え入れられる面白さを体感してきた。

 

「迎えてもらえると嬉しい。僕たちもそういう思いを大切に、hug coffeeをやっていきたい」

 

「ふらりと訪れた先に面白い出会いがある。スペシャルティーコーヒーをきっかけに、窮屈な日々の希望であれたら」

定期的に焙煎士が訪問をしているニカラグアにあるブエノスアイレス農園

 

スペシャルティコーヒーとは、甘さ、酸味、味わいなど一定の基準をクリアしたコーヒーをさす。品質を守りながら持続的に生産されるかなど、背景も重視される。

 

hug coffeeのコーヒーは、全てスペシャルティコーヒーのみ。西門町店に自家焙煎機を導入し、丁寧に焙煎をしている。

 

 

 

 使う素材は、できるだけローカルの物を選ぶ。牛乳は富士山麓の朝霧高原のものを、ハチミツは地域の農家のものを使っている。

 

「小さな循環を繋いでいきたい。僕たちは一杯のコーヒーを通して、シチュエーションを提供しているんです」

 

 

「コーヒーじゃなかったら、こんなにたくさんの人と出会えなかったかもしれない」

 

と、話す古閑さんはもともとコーヒーが飲めなかった。

 

二十代半ば、偶然の出会いからスペシャルティコーヒーの美味しさを知ることとなる。きっかけは、後に修行先となったmanu coffeeを営む西岡さんが淹れてくれた一杯だった。

マヌコーヒー代表 西岡さんと弊社代表の古閑

 

「こんなに美味しいものだったのかと、衝撃を受けました」

 

コーヒーの世界へ、足を踏み入れた瞬間だった。

 

「一杯のコーヒーを淹れる時間は約30秒。バリスタの30秒にかける人生ってかっこいいと思ったんです」

 

 

 古閑さんは福岡。酒井さんは沖縄。二つの地で飲食業に関わってきた二人は、三十歳を機に静岡で一号店をオープンする。その根にあるのは、地域密着型の店でありたいという想いだ。

 

影響を受けた街は、アメリカオレゴン州、ポートランド。山、海、川に囲まれた土地柄はどこか静岡を彷彿させる。オーガニックを大切にする食文化とともに地元の店が立ち並び、その地を愛した人々で賑わう。

 

「静岡も地域を支えてきた商店が沢山ある。街に活気が生まれて面白い場所が増えていけば、もっと楽しくなると思う」

 

 hug coffeeの店づくりは、街を知ることから始まる。まずは古地図と照らし合わせ、歴史との関係性を読み解いていく。

 

第一号店がある両替町は、徳川家康によって銀貨鋳造所が設置された歴史をもつ。店内にはヴィンテージ家具が並び、床にはゆずり受けた古材を使っている。

 

「地盤が固く、流通がいいところが魅力。この場所を訪れた人の足跡とともに育っていってほしい」

 

紺屋町店は、徳川慶喜公屋敷跡である浮月楼のすぐ近く。交差点横、コンパクトな立地をいかに活用していくか考えてつくられた。

 

「ポートランドで見つけた面白い店を参考に。気軽に集い、交わる場であれたら」

 

 

南町店は長年愛された純喫茶を引き継ぎ、懐かしさと新しさが同居する。

 「イメージは、ネオ純喫茶。リラックスできるように、ステンレスなど無機質な素材が見えないようにしています」

 

4月にオープンしたばかりの西門町店

 

自家焙煎所がある西門町は、徳川秀忠を生んだお愛の方に縁が深い、宝台院の西門にあたることから由来された。これまで以上に、スペシャルティコーヒーの可能性を追求している。

 

「他店舗よりも、コーヒーを核にしたメニューになっている。シンプルで奥深いコーヒーの世界を楽しんでもらえたら」

 

 入れかわり、立ちかわり、人がやってくる。

取材をしたこの日も、老若男女が集っていた。

 

「あらゆる世代の方が来てくれるから、マニュアルや正解はない。お客さんに合わせた接客をしていきたい」

 

大切にしていることは、直感的な心地よさ。

 

「なるべく店内には文字を置かずに、アートや絵画を飾っている。音楽は、客層や空間感に合わせて選んでいく。自宅にいるようにリラックスしてほしい」

 

豊富なメニューは、多くの人に寄りそうためにある。

 

「お子さんが来たらジュースやシェイク、コーヒーが飲めない人にはチャイやラテを。みんなが楽しめるメニューを考えている。ジュースを飲んでいた子の初めてのコーヒーが、hug coffeeだったら嬉しい」

  

 

両替町店から始まり、紺屋町店、南町店など、現在展開しているのは7店舗。惜しまれながらも閉店した店舗は2店舗。伝馬町店とクラフトビールを扱ったhug hopだ。

 

 

現在、街のいたるところでクラフトビール店が賑わっている静岡。hug hopがオープンしたのは2016年。クラフトビールの先駆けだった。

 

 「ポートランドでは、コーヒーとクラフトビールは密接な関係だと言われている。訪れる人の裾野を広げようと始めました」

 

2020年。コロナウイルスが蔓延する中、客足が遠のき売り上げが減少する。どの店舗も苦境に立たされた。今やれることをやろうと挑戦したクラウドファンディングは、1日で目標額を達成する。応援されてきたことを肌身に感じた。ここで、ある決断をすることとなる。

 

「僕たちは、コーヒーで勝負をしていこうと思った」

 

2020年末日。hug hopを閉店し、現在はhug coffeeのみに切り替わった。

 

 

「コロナウイルスをきっかけに、あらゆる見直しをした。もっと地域密着型の店をつくりたい。いつか公共施設内にオープンしたいと思いました」

 

それから2年後。思い描いたビジョンがかたちになる。2022年12月、初めての焼津市、ターントクルこども館店がオープン。翌年1月には、駿府城公園横に設立された静岡市歴史博物館店がオープンした。始めから、順調だったわけではない。

「紆余曲折しながらも、一歩ずつすすめてきた。新しい静岡の名所になってくれたら嬉しい」

 

 

 

改めて、どうして人が集う場所をつくりたかったのか。と、尋ねてみた。

 

 「十代の頃から、地元の公園がさびれていることが気になっていた。子供達にさびた遊具で遊んでほしくない。海外で公園がにぎわっている光景を見て、街にはひらかれた場所が必要だと思ったんです」

 

ひらかれた場所に、かけ合わさったのはコーヒーだった。

 

「コーヒーは、発展途上国でとれる人間くさいもの。温度があるものとよく合う。これからの時代にこそ、誰かと食事や会話を楽しむ時間が必要だと思う」

 

 

 

酒井さんは、たそがれるという言葉をとても嬉しそうにつかう。

 

「カフェはたそがれる場所。パソコンやスマートフォンからも離れて、ひたすら時に委ねる時間があってもいい。何にも追われない時間は、豊かだと思う。コーヒーがない人生は考えられない」

 

「実は、コーヒーが飲めないんです」

 

と、伝えると

 

「嬉しいねえ。これから好きになる可能性があるってことでしょ?そういう人も来れるコーヒー屋でありたい」という言葉が印象的だ。

 

 

コーヒーかすの堆肥を使用している、久能海岸にある山口農園

 

2021年『静岡市SDGS連携アワード』では、サスティナビリティ部門賞を受賞した。

全店舗で廃棄されるコーヒーかすは年間5t。辿り着いた答えは、微生物で発酵させ堆肥にすることだった。取り組みは功をなし、コーヒーかすの廃棄量は0となる。

 

「地域の方達の協力を経て、コーヒーかすが堆肥になった。収穫した野菜を使用し、新たな循環が生まれる。サスティナブルなことができているのはないかと思う」

 

 デザインダルマ展2021 

 

7年目の開催を迎えた「デザインダルマ展」も、リピーターが集う人気企画の一つ。デザインダルマとは、真っ白なだるまにアーティストたちが自由にペイントをしたアート作品だ。きっかけは、かつて顧客として通っていたスタッフの曾祖父が、だるま職人だったことだった。巡り合わせはかさなり、新たな息吹とともに今に至る。

 

「伝統工芸の未来を感じた」

その言葉には、良きものを未来に引き継いでいきたい想いがある。

 

ハグコーヒースタッフが講師を務める静岡商業高校の課外授業 

他にも、静岡の企業と取り組む『はぐるまプロジェクト』や、アーティストの個展、学校の職業体験など活動は多岐にわたる。

 

一見、繋がりがないものを独自の目線で結んでいく。その核にあるのは、コーヒーがもたらした人との縁だった。

 

「コーヒーは、人と人を繋ぐ力がある。僕たちは、コーヒーがもたらしてくれるものを信じている」

   

二人の代表の話を聞いていると、樹木が思い浮かぶ。命を育む土の上に一本の樹木が根付き、新たな生態系をつくっていく。


「面白い場所には、出会いがある。新しいカルチャーが生まれて、いろんな人が活躍できる静岡になってくれたら」

 

 

これから描く、未来について尋ねてみた。

 

「みんなに美味しいコーヒーを飲んでほしい。他にはできない、かゆい所に手が届く店でありたい」

 

「いい仕事をしていきたいと思う。いい仕事とは、クオリティのこと。作り手や飲食店という立場が、大切にされることを願っています」

 

人は、受け皿がある所に集う。静岡に根を張り続けた12年。迎え入れてきた場は地域と繋がり、やがて社会へとひらかれていく。

 

今日もhug coffeeは一杯のコーヒーを淹れる。

 

この地で、新たな化学反応が生まれることを願って。コーヒーは街をデザインし、新たな居場所をつくり続ける。

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